人生を味わう本―『風よ僕らに海の歌を』
人生で、予想できることが、
一つだけある。
それは、予想もしないことが
起こるということだ。
増山実著「風よ僕らに海の歌を」の
冒頭に出てくるのが、この言葉だ。
人生には予想もしないことが起こる。
そんないろんな出来事の積み重ねで
人生はできている。
ある出来事が起きたその時と、
何十年もあとに
その出来事を振り返る時とでは
意味合いががらりと変わることも
あるのかもしれない。
あらすじ
この言葉の主は
イタリア人ジルベルト・アリオッタ。
第二次世界大戦中、
日本と同盟国だったイタリアは
イタリア海軍の船リンドス号で、
日本に軍事物資を輸送していた。
アリオッタはこの船の調理担当の兵士だった。
しかし、突然の連合国への
イタリアの無条件降伏により
イタリアと日本は、瞬時に敵となり、
彼は祖国へ帰ることができなくなった。
ほんのつい先程まで
仲間だった日本兵に、
銃を突きつけられることになる。
戦争、戦後の時代に
翻弄されながらも、
置かれた場所で懸命に生きてきた
アリオッタの人物像が
彼と共に過ごした人たちの言葉によって
浮かび上がってくる。
武田尾、宝塚、
イタリアのシチリアを舞台にした
日本人とイタリア人の愛の物語。
この本の見どころ
1 視点が変われば、見方が変わる
この本を読んで感じたのは
視点が変われば、
ものごとの意味合いは変わるということ。
一つの出来事が起きた場合
それはいい出来事だろうか。
それとも、悪い出来事だろうか。
日本人の視点と、
陽気なイタリア人の視点を通して
一つの同じ出来事を見ると
全く意味合いが変わってしまう。
人生の中で起きる出来事は
全てそうなのかもしれない。
どん底の時代もあったけど
あれがあったから今の幸せに
つながってるのかもしれない。
この本にでてくる
陽気なイタリア人のように
自分にとって嫌な出来事や
不幸な出来事でも
視点を変えて
きっとあるであろう
いい側面を見ていけるようになりたい。
2 事実と創作を混ぜる巧みさ
増山さんはフィクションの物語の中に
巧みに史実を盛り込んでくる。
増山さんが以前
「フィクションは
ノンフィクションよりも多くを語る」
と言った言葉が今も心に残っている。
ノンフィクションは事実しか書けないが
フィクションは足りない部分を
創作で補うことができる。
そうすることで、事実の部分が
しっかり浮かび上がってくるという。
増山さんの本を読んでいると
どこまでがノンフィクションで
どこからがフィクションなんだろうと
思うことが多い。
何度かお話を伺ったが
絶対フィクションだろうと思う部分が
ノンフィクションだったりするのだ。
放送作家さんなので
取材力、情報収集力が
すごいんだろうなぁ。
増山さんの本を読むと
知らなかった史実をたくさん知れて
いつも勉強になります。
3 宝塚ファンにはたまらない
この本、宝塚ファンにはたまらない。
宝塚の史実、実在する場所が
たくさん盛り込まれている。
この本に書かれている場所に
実際に行ってみるのも、とてもおもしろい。
この本の主人公ジルベルト・アリオッタには
モデルがいる。
モデルは、宝塚にある
日本最古のイタリアンレストラン
「アモーレ・アベーラ」
の、初代店主オラツィオ・アベーラさんだ。
店内には、アベーラさんの写真が
今も飾られている。
この本に出てくる
ミートボールのスパゲッティ
は、今も食べることができる。
小説の中に出てくる料理を
実際に食べられるなんて、
うれしいことだ。
2020年には取り壊されてしまう
宝塚ホテルのお話し。
戦時中の姿。
USJができる前までは
地元の子供たちに大人気だった
宝塚ファミリーランドの
現役時代の描写もでてくる。
今のきらびやかな大劇場の姿と比べたり、
宝塚ファミリーランドの
懐かしい思い出に浸れてうれしい。
宝塚のもっと山の手
「武田尾」も出てくる。
この本の中で
汽車が走っている線路の上を
歩くシーンがありますが、
今はこの線路は廃線になっています。
武田尾の廃線は
今はハイキングコースとして有名です。
武庫川渓谷沿いに
枕木を踏んで、
いくつもの真っ暗なトンネルを
ぬけられる場所で
とてもおもしろいハイキングができます。
本の中に出てくる場所に
実際に行けるのって
とってもおもしろいです。
じっくり読んで、
宝塚や武田尾に足を運んでみてくださいね。
小説の世界が、どんどん深まって
自分もその中に入れるような気になります。
また次の記事にも書きますが
お散歩マップの写真
貼っておきますね。
一気読みの面白さ
小説なかなか読み進められないんですが
この本は一気読みしてしまいました。
イタリアと宝塚、
食べること、歌うこと、踊ること。
広い世界のことを描きながら
少しずつ絡まり合って
一つの物語になっていく。
読後、とても暖かい気持ちになれます。
ぜひ、読んでみてくださいね。
おまけ
宝塚大劇場内の
宝塚レビュー郵便局から
はがきを出したら
こんなかわいい消印
押してくれました。
毎年変わるようです。
今年のはどんなかなー。
お立ち寄りの際は、
ぜひお手紙出してみてくださいね。